手縫いができるようになったらどうしても作ってみたかった鞄が、口枠付きの鞄でした。ドクターズバッグ、ロイヤーズバッグ、ダレスバッグなど、さまざまな呼び名のある鞄です。
まずはサイズ感の検討ですが、A3サイズの図面を折らずに持ち運べる鞄がほしいと思っており、それをベースに内寸を決めるとかなり大きな鞄になりそうでした。
大きな一枚革を売っているお店を探したところ、蔵前にある「Kawamura Leather」さんで希少なイタリアンレザーを一枚から買えるとのことで、コロナ禍でしたので来店予約をしてお店へ伺いました。
先に作った持ち手の革「ミッスーリ」と同じトスカーナのタンナーさん La perla azzurra 社の「アラスカ」というワックス仕上げの革がとても気になっており、今回はアラスカのアイボリー色を使うことにしました。
色のイメージはティラミスを食べていた時にふと思いついたのですが、先に作った持ち手がミッスーリのチョコ色でしたので、白っぽい色と合わせたら合うだろうなと思いました。ステッチも本体に合わせた白系ではなく、あえてチョコ色にしたらアクセントになり面白いと思いました。
購入したアラスカのアイボリーは厚さが2.2mmほどでした。カワムラレザーさんでは事前に予約をすると購入した革を漉き加工する機械も貸していただけるので、その場で寸法を決め、カッターで大まかに裁断をして、口枠のアルミ芯に被せる材料は1.35〜1.4mmほどまで漉きました。機械の使い方も丁寧に教えていただき、初めてでも失敗せずに漉くことができ、とても助かりました。
帰ってからいよいよ制作に入ります。口枠部分は、アルミ製の芯材に革を巻いて作ります。2mm厚では厚すぎて巻けないため、漉き加工ができたのはとても有難かったです。1.4mmに漉いた革の裏面に、ゴムのりをシリコン製のヘラで均一に塗り、少し乾かしてから貼り合わせます。それから上の写真のように端部に縫い孔を空けて少し縫います。ここは本体と縫い合わせない部分なので、先に縫っておきます。真ん中の孔は、芯材と同じ位置に空けて、後ほどポンネジを通すためのものです。
アラスカのアイボリー色は、表面に吹付けられたワックスの効果で最初は非常にマットな質感で真っ白です。これが徐々に、しかも劇的にエイジングしていきます。
アルミ製の芯材に1.4mm厚に漉いたアラスカを巻き、持ち手とポンネジを合わせてみたところです。
アルミ芯には、ポンネジ用の孔は元々空いていますが、持ち手用の孔は空いていません。アルミ芯に孔を空けるのは、電動の工具が無いとなかなか大変です。地道にピンバイスで空けましたが、時間がかかりすぎる上、指の皮が持ちません^^;
持ち手とショルダー用のストラップをカシメで打込み、口枠の形が見えてきました。
ポンネジの飛び出した所はネジ山2周分ほど残して切ってから、ナットが抜けないように切口を金槌で軽く叩いて潰しますが、その力加減がなかなか難しいです。
叩く力が弱いと潰れず、強すぎたり叩く角度が真上からずれるとネジの軸が歪んでしまって口枠がきれいに開かなくなります。それで何回か失敗してやり直しました。
失敗したポンネジを外す時に巻き革を傷つけやすいので、巻き革は何枚か予備を作っておくと安心です。
口枠を仮に閉じてみたところです。何となく良い感じです。
続いて胴体の制作に移ります。写真では見づらいですが、床面(裏側)に、くじりで縫い代と裁断するラインを引きます。鞄の後ろ側の口枠が手前側にかぶさって閉じるので、それに合わせて手前側よりも後ろ側が5mmほど大きくなるように寸法を決めています。
裁断したら袋状に縫い合わせて行きます。内縫いにしたので裏面が表になるように縫っていき、最後にひっくり返します。これだけ大きいと、ひっくり返せるか心配になってきます…
無事にひっくり返せました。口枠を仮に当ててみて寸法が合っているか確かめます。だいたい良さそうです。
形が良さそうなので、口枠をゴムのりで本体に仮留めします。
中はこんな感じになっています。仮留めの状態でそっと閉じてみましたが、しっかり閉じました。
ちゃんと閉じることを確認したら、いよいよ縫っていきます。本体側には予め菱目打ちで孔を空けておき、菱錐で口枠側にも孔を通します。菱錐を垂直に差し込まないと内側のステッチがまっすぐ通らないのでなかなか難しいですが、良い方法がないか、まだまだ模索中です。
表側のステッチの中央には、開く時の手掛けを縫い付けておきます。
本体と口枠を縫い終えたら、最後に留め具を縫い付けます。金具は今回はドイツホックを使いました。持ち方は手持ちの他に、肩掛け用のDカンを2個、さらに後ろ側と下部2箇所にDカンを付けてリュック状に背負えるようにもしました。ただ、大きすぎて背負うとちょっと異様な感じです^^;
椅子のサイズと比較するとなかなか大きな鞄であることが判るかと思います。外観はひとまず形になりましたが、このあと底板と底鋲を取り付けて完成です。底板の制作過程は改めて別記事に書きたいと思います。
内縫い口枠鞄(1) (2021.04)
W460mm×D200mm×H330mm(持ち手含まず)
イタリアンレザー(アラスカ)t=2.2mm,1.4mm、ミッスーリ(3.5mm,2.7mm)、ドイツホック(真鍮製,メッキ仕上)・大カシメ(長足)・四角カンNo.220-18mm・DカンNo.211-21mm,18mm・ナスカンNo.310-30mm・尾錠・底鋲KA-404-12(ネジ10mm)(真鍮)、中ポンネジAT色(銅)、口枠W450×t3mm(アルミ)、蝋引き糸
おまけ
記録用のメモです。写真や本文で紹介しきれない部分など、参考までに。